II. 研究活動

II-1.経験のある研究技術分野

もっとも多くの人が経験している研究技術は電気生理学的方法

図7.経験ある研究技術

 研究手法としては図7に示すように電気生理学的手法の経験がもっとも高く、54.7%の人がもっている。ついで分子生物学的手法、形態学的手法、生化学的手法、イメージングとなっている。

 医用工学,モデル化は少ない。電気生理学的手法を使っている人が多い点は生理研連の結果でも同じ(31%)である。

研究対象は摘出組織・器官を使った実験系が多い(53.4%)

 研究対象としては摘出した組織・器官を使ったin vitroの実験系がもっとも多く(53.4%)、次に麻酔下の個体を用いた実験系が多かった(41.2%)。また覚醒状態の個体を使った実験の経験がある人が32.4%もあり、ヒトを対象とした実験が多く含まれている可能性がある。細胞を使った実験の経験は35.8%あるが、分子レベルの実験の経験は14.9%とまだ比較的少ない。

図8.年代別経験のある研究対象

 年代毎に経験ある研究対象を比べてみると(図8)、意外に若い層(30歳以下)に分子レベルの研究の経験者がない。31〜40歳そして、56〜60歳の研究者に多い。これは恐らく最初から分子生物学を選んだ人は生理学会には所属しておら、分子レベルの研究の経験を買われて生理学分野に職を得たか(31〜35歳代)、またはある程度組織・器官レベルでの研究を経験した人がそれを掘り下げるために分子レベルの研究を取り入れている(それ以上の年代、特に56〜60歳)ことを示しているのであろう。

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生理研連が昨年実施し、回答者の90%が男性であるアンケートでは、個体(麻酔、覚醒の区別なし)が31%、細胞が29%、器官組織が31%、分子が6%である。こちらは現在の研究対象を聞いているのでほぼ単一選択であり、また回答者が教授・助教授に偏っている点が、今回の女性研究者の回答と生理研連の回答との差を生んだと思われる。
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II-2.論文発表

多くの人は1年に1編以上の論文を発表

 レフェリー付きジャーナル(和英問わず)への発表論文数の質問には148名の回答者全員から記載があった。年齢層が広いことから、総発表論文数は0から238編にまで広がっている。

図9.年代毎の発表論文数の推移
 5年間の発表論文数を年代毎に見てみると(図9)、41〜45歳未満の年代をのぞいて5編以内にピークがある。41〜45歳未満の年代では5編〜10編にピークが移動し、この年代での研究活動が全般的に高いことを示す。それ以上の年代では第二の小さいピークがある。これは恐らく教授、助教授になって協同研究による研究活動が増えることを意味すると思われる。

図10.年代別一人あたり発表論文数(5年間毎)

 5年間ごとの一人当たり発表論文数(図10)をみると、年齢を追う毎に増え、46歳〜50歳で平均9.5編となる。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪研究活動が活発であるかどうかの1つの目安として“1年に1編の論文”ということがいわれるが、この結果を見るとかなりの女性研究者がその基準を満たしていることがわかる。
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出産・育児年代でも研究活動を落さない努力が発表論文数に見える

図11.子どもの有無と発表論文数
出産・育児年代での研究活動:子どもの有無が研究活動にどのように影響するかを知るために、子どもの有無で発表論文数を比べてみた(図11)。おおむね子供に手がかからなくなる50歳までを比較してある。後述のようにほとんどの場合に出産は35歳までのあいだになされている。しかし、どの年代においても、子どものある人とない人との間に発表論文数において有意な差はなかった(t検定)。出産・育児のなかでも非常な努力や工夫によってカバーしているということがうかがえる。
(具体的には本年3月に開催されたWPJのワークショップの報告集に語られている)。
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5年間の平均発表論文数には子どものある無しによる差はみられず、出産・育児年代でも研究活動を落とさない努力がうかがわれた。仮に一時的に業績が落ちることがあっても(これは本アンケート結果では見えないが)、長期的に見れば決して出産・育児で業績が落ちることはないことが明らかになった。従って、「女性は出産・育児があるため業績があがらない、だから研究職に採用しない」ということは根拠がないことになる。しかし、子供を持つ女性研究者の状況をこのままにしておいて良いということでは決してない。自由回答に切実な声がよせられているように、多面的な保育支援体制の整備は絶対不可欠なことである。また,このアンケートでは設問が無いため見えないが、余暇活動の部分がほとんど犠牲にされていると推定される。
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II-3.研究費
 1)科研費

科研費をほぼ毎年申請している人は78%の高率

図12.科研費の申請状況
図12に示されているようにこの項に回答した人142人のうち、申請できる立場に無い人が34人で23.9%を占める。申請できる人の中で、毎年申請する人は60.1%、ほとんど毎年申請する人は17.6%であり、両者をあわせると77.8%と非常に高率である。

科研費をほぼ毎年申請しているにも関わらず一度も交付を受けたことのない人が26%もいる!

図13.科研費の交付の有無
 しかし、一度でも科研費の交付を受けたことのある人は、申請できる人の60.2%にとどまる(図13)。また、毎年またはほぼ毎年申請しているにも関わらず一度も交付を受けたことのない人が22名(26.2%)もあった。その中に比較的交付率の高い奨励研究の対象年齢が含まれる30歳代の人が7名いた。また、総論文数(レフェリー付きの論文)が30編を超える人(最高61編)が5人も含まれている。
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科研費をほぼ毎年申請しているにも関わらず一度も交付を受けたことのない人が26%もいることが明らかになった。その中には結構業績をあげている人も含まれていた。WPJニュースレターNo.5の特集では「ともかく業績を積むことが重要だ」と科研費審査に携わって来た男性研究者から指摘されているが、以上の結果をみると業績だけが科研費交付の基準になっているとは考えにくい。そこでは指摘がなかったが、しばしば言われる、学会有力者などとの人脈が女性研究者には欠けていることが多い、ということが影響しているかもしれない。一方、同特集で指摘されている申請書の書き方の問題(作成規定に沿って作成していない、申請の論旨が明瞭に書かれていないことが多い、研究の独自性が明瞭に述べられていない、申請の熱意が感じられない等)もあり得ることをわれわれ女性研究者は心しておく必要がある。
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図14.研究種目別交付回数と人数
 奨励研究A:交付された科研費をみるともっとも頻度が高いのが奨励研究Aで、申請できる人108人のうち40名が交付を受けている(図14)。積算交付回数で81回である。まだ申請限度の年齢に達していない人もあるので、平均5年申請できたとすると(まったくの仮定)、交付率は15%であり、男女あわせた平均交付率25.1%(平成12年度新規)と比べてかなり低い。積算交付回数をみると1回がもっとも多く19人であり、ついで2回受けている人が6名である。最高は5回で、1名ある。

 ついで交付を受けた人数が多いのが基盤研究Cであり、34人である。1回がもっとも多く12人であるが、最高8回受けた人もある。基盤研究Bは10名が受けており、2回3回と受けている人もある。
しかし参考資料にあるように基盤CとBとの相対的な採択件数からみると、女性へのBの交付数はずいぶん少ない。基盤研究Aの交付を受けた人も2人あり、そのうち1名は3回受けており、頼もしい限りである。特定領域の研究費を受けた人は6名、重点領域研究の代表をされた人が5名ある(公募分か、全体の代表かどうかは不明である)。一方、基盤展開が交付されたのは2名にとどまる。技官が申請できる奨励研究Bは5名が受けている。

[参考資料]

平成11年度に採択された科研費中に女性研究者の占める割合(新規・継続込み)
(科学新聞に載った科学研究費配分一覧を使って数えたもの。女性かどうかは名前からはわかりにくい場合もあるので,多少の誤差は含まれていることを承知の上で表を見てください)

医学ー生理学

基盤A

基盤B

基盤C

奨励A

萌芽的
総採択件数

22

184

321

134

45
女性の採択件数

0

8

37

9

1
女性の占める割り合い(%)

0.0

4.3

11.5

6.7

2.2

複合領域ー神経科学

基盤A

基盤B

基盤C

奨励A

萌芽的
総採択件数

14

96

157

94

31
女性の採択件数

0

6

16

15

2
女性の占める割り合い(%)

0.0

6.3

10.2

16.0

6.5

女性研究者の科研費の取得率は全般的に低い、特に高額の科研費の取得率は低い

 参考資料の表でみると基盤Cを取得した人の中に占める女性研究者の割合は、全生理学会会員に占める女性の割合(1割)にほぼ等しい。しかし、基盤Bでは半分以下となり、基盤Aになると11年度はゼロ、という厳しい状況である(表には載せていないが、平成12年度の基盤Bの採択件数に占める女性の割合は生理学が5%、神経科学が6%で、11年同様に女性会員の比率の半分以下。基盤Aはやはりゼロであった)。この結果は、女性には高額の研究助成が取りにくい状況であることを明確に示している。高額な研究費ほど女性の割合が低いのは、高い地位にある女性研究者の比率が低く申請件数も低い(推定)ということとも関連しているのではなかろうか。また、萌芽的研究を取得している人のなかで、女性の占める割合が低い。もっと積極的にこの分野に応募すべきだろう。また医学-生理学分野では奨励Aの割合も低く、これは先ほどの大まかな計算からの推定が大きく間違ってはいないことを示す。

2)その他の研究費

 文部省以外の政府機関または外郭団体から研究費を受けたことのある人は回答者140名の内32名(22.9%)であった。内訳は表の通り。

金額(円)

〜200万

〜500万

〜1000万

〜2000万

>2000万
件数

18

7

0

4

2

3)各種助成金

 受けたことのある人は回答者142名中58名で、40.8%である。内訳は表の通り。

金額(円)

〜50万

〜100万

〜300万

〜1000万

>1000万
件数

32

23

19

4

0

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最近は各種の財団が旅費援助などもおこなっているので、もっと積極的に応募し、外国での発表も積極的に行うことが望まれる。
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