生理学女性研究者の集い(第3回)に参加して

宮下加枝(順天堂大学医学部生理学第一講座)

 桜の蕾がほころびはじめた3月26日、平成9年度第3回女性研究者のグループ デ イナーが浜松名鉄ホテルにて開催されました。集いの世話人は、亀山良子先生(静岡県立大短期大学部)が労をいとわず引き受けて下さいました。
  初めに、関西医科大学教授、玄番央恵先生が「サルに感謝ー随意運動の発現と制御の中枢機序」という題で講演をして下さいました。私達が、判断や認知、さらに運動の発現をおこなう際、脳が全体のシステムとしてどのように活動しているのか、未だ詳細に解明されていません。先生の研究の特色は、サルに視覚(または聴 覚)刺激に応答してレバー上げ運動をさせ、慢性埋め込み電極を用いて大脳皮質の多くの部分から同時にフィールド電位を記録し、詳細な検討を行った点にあります。実験の結果、学習の初期の「認知」の段階は左前頭前野、その後の運動の「熟練学習 」の段階になると小脳から大脳皮質運動野への投射が重要である事を示されました 。サルに発声させる訓練では、ベランダにケージを置いて子ザル数匹を飼い、先生自身が糞よけのカッパを着て中に入っておこなった由、生きているサルと正面から向き合って実験する先生の意気込みを感じました。
 講演のあと、特産の鰻を使った「うな玉」などを食しながら、なごやかな雰 囲気の中で、懇親会が始まりました。女性研究者の会発足以来、NEWSLETTERの発行、WPJnetworkやホームページによる通信などを介して、会の活動、維持にあたって来られた各担当のスタッフからの報告や、NEWSLETTERの個人当て郵送の方針が述べられたあと、参加者全員がマイクを持って、各々現在行っている研究や今後の抱負などを話しあいました。
 今年の参加者層は、ベテランの方からまだ駆け出しの大学院生まで幅広く、昨年より10人あまり多い参加者数であったそうですが、専門分野も多様で、様々な話題を聞くことができました。学会に参加しても聞きに行くのは自分の実験に関係するセッションだけ、 ということについなりがちですが、生命現象に対する幅広い興味を持ち直す良いきっかけになったと思います。また、研究のみならず、一人の人間として女性としてどのようにやってきた(いる)か、という点についてもさまざまなお話しを聞くことができ、未来の自分の生き方モデルを学ぶよい機会になりました。この会の会員から昨年、2人の教授が誕生し、水村和枝先生(名古屋大名古屋大学環境医研)と高木都先生(奈良県立医大第二生理)が紹介されました。このようなことがあえて話題になること自体、女性研究者がおかれている現実の厳しさを示しているのですが、とにかくこうした交流を通して、これからもがんばろう、という参加者全員の「運動準備電位」と「motivation」が倍増したことと思います。次回、金沢で行われる日本生理学会での再会を約束して散会になりました。
 私はこのグループデ イナーに初めての出席でしたが、この会が単なる「女性の集まり」ではなく、研究そのもの、または研究生活についての意見のアクテイブな交流の場に成長していることを実感しました。それぞれの研究室ではとかく孤立しがちな女性研究者ですが、こうして集まると、日本各地で同じようにがんばっている人達がいるのだな、と励まされます。 そして今後、これらの活動が各人の優れた研究へとつながっていくことを期待したいと思います。


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