I. 回答者像

I-1. 年齢

図1.アンケート回答者の年齢構成
 回答があったのは140名であった。5歳区切りにして構成割合を見たものが図1である。25歳未満の層が少ないのは、医歯学系ではまだ卒業してないので当然のことであるが、31歳以上35歳の年代が突出していることを除けば、55歳までほぼ一定の比率である。31〜35歳からの回答数が多い理由として、臨床教室から学位取得のために一時的に研究に携わる人が多い、あるいはこの時期に出産・育児を迎え、その後研究から離脱したことなどが推測される。ここを乗り越えた人は以後ずっと研究を継続していると見られる。

I-2. 出身学部・大学院

生理学研究を支えているのは医学部以外の出身者が多い(医学部出身者は31.4%)

図2.出身学部
 この項に回答のあった140名のうち、医学部出身者が31.4%を占め、もっとも多い(図2)。歯学部出身者は少なく4.3%であった。医学部の次に多いのが薬学部で19.3%であり、ついで理学部12.9%である。家政学部出身者は6.4%あり、また文科系学部出身者も4名2.9%あった。その他の中には,水産学部、栄養学部、衛生学部、医療技術短大、教育学部、教養学部、体育学部があった(複数の人から回答のあったもの)。複数学部卒業者が3.6%あり、学部では歯学部と理学部、医学部と教育学部、文学部と衛生検査技師学校、文学部と栄養学部、理学部と家政学部の組み合わせがあった。
 生理学会に属する生理学講座・教室は圧倒的に医学・歯学部に多いことから考えれば、医歯学部出身者が全体の35.7%という割合は低い。つまり医学・歯学部の生理学の研究に携わる人は医歯学部以外の出身者で担われていることを如実に示している。

大学院卒業者の比率は51.4%

 大学院卒業者は回答者の51.4%であり、そのうちの43.4%(複数回答あり)が医学研究科である。複数回答の中では、歯学研究科と理学研究科、医学研究科と看護修士、医学研究科と理学研究科、医学研究科と工学研究科、医学研究科と理学研究科があり、医学・歯学研究科は現在まではほとんどの場合修士を終えてからでないと入学できないことの反映であろう。

I-3. 博士号

博士号保持者は73.3%     論文博士の割り合いが高い(42%)

図3.博士号の有無

博士号取得者は院生・学生・研究生を除く135名のうちの73.3%である。その42%が論文博士である(回答者全体の中では31.1%、図3)。

 博士号の種類は、圧倒的に医学博士が多く70.7%であった。薬学、歯学、理学博士はそれぞれ5%前後を占めるに過ぎない。歯学部にも生理学教室(講座)が必ずあるにも関わらず、歯学博士が少なかった。

 現在博士号をもっている人の博士号取得時年齢の記載があったのは89名で、この人たちの博士号取得年をみると(図4)、30歳までに41.6%の人が取得している。35歳までには74.1%の人が博士号を取得しているが、その後もわずかに博士号取得率は上昇し、100%になるのは51-55歳である。

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本アンケートの結果では、博士号保持者は高率であるにも関わらず、大学院卒業者は約半数、論文博士の割合が高かった。女性の場合、大学院へ行くことは論外という風潮が長い間あり、大学院へ入らずに技官や助手として就職し、研究を続ける中で学位をとる場合が多いことを示していると思われる。
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図4.学位取得時の年齢

参考:理系だけでみると、現在50歳代半ばにある女性研究者が大学院を卒業した頃の1970年の理系学位取得者における女性の割合は4.3%であった。1999年の大学院博士課程修了者に占める女性の割合は14.3%とかなり増加している。
(文部省学校基本調査より) 

I-4. 職場における地位

教員層中の助手、助教授・講師、教授の比率は 2:2:1、教授の比率が低い

図5.回答者の地位

 回答者のうち常勤者が79.5%で、学生は8.8%、任期付きポジションに就いている人4%、非常勤の職に就いている人4.1%、臨床医は3.4%である(図5)。講師、助教授、教授の職にある人の占める割合は全回答者の40.1%で、この割合は1995年時点での全生理学会女性会員中での割合22.5%と比べると高い。回答した人が多少この層に偏っていたことを示している。

 本アンケート回答者中常勤者に占める助手の割合は30.5%、講師は15.3%、助教授は16.9%、教授は17.8%であった(図6)。教員だけで比率を見ると、助手38%,助教授と講師あわせて40%,教授22%である。

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 4年制国立大学教員のうち男性教員の職階分布は、助手29%、助教授・講師37%、教授34%と3者の比率がほぼ等しい(1995年の文部省学校基本調査による)ことと比べると大きな違いである。今回の回答者が上級職の人に多少偏っているにも関わらず、また女性教員の比率の高い短大も含まれているにも関わらずこのように教授層の比率が低いということは、女性研究者の昇進を阻むものがあることをうかがわせる。
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 常勤者の所属先としては4年制または6年制の大学が76.3%ともっとも多く、ついで短大が12.7%であった。国公立の研究所、民間研究所に勤務という人がそれぞれ4.2%,2.5%であり、民間企業は1.7%であった。

図6.常勤者の地位

任期付きポジションの任期は2〜3年と短いものが多い

 任期付きポジション:現在常勤の職にある人で、任期つきポジションを経験した人は回答者112名のうち18名であった(16.1%)。内訳は

科学技術特別研究員制度

 1名

基礎科学特別研究員制度

 3名

独創的個人研究育成制度

 1名

学術振興会特別研究員

 2名

その他

 11名
である。そのポジションは研究員・技術員が8名で9名はその他のポジションであった(1名は無回答)。技術参事やグループリーダーという職にあった人はゼロであった。在任期間は2年がもっとも多かった。

 現在任期付きポジションについている人は6名と少ないが、25歳以上35歳までの年齢層中の学生・研究生・臨床医以外の36名の中では16.7%にあたる。任期期間は3年がもっとも多いが、1年という人も1名ある。内訳は

科学技術特別研究員制度

 1名

独創的個人研究育成制度

 1名

学術振興会特別研究員

 1名

その他(理化学研究所脳科学研究センター研究員、
文部技官、大学独自の雇用制度)

 3名

である。

非常勤の職: 現在非常勤の職に就いている人は6名(回答者のうちの4.1%)で、そのうち、以前の職が常勤だったことがあるひとが5名、任期付きポジションと常勤と両方についていた人が1名である。非常勤の職に就いている理由は、「職が見つからないため」「介護のため」「任期つきポジションの後の職が見つからない」がそれぞれ各1名、定年が2名、その他1名であった。

任期付きポジションは出産・育児期の女性研究者にとって問題が多い

 本アンケートの結果では、任期付きの職に就いていたことのある人、現在就いている人ともに、その任期期間は2〜3年という短いものが圧倒的である。この期間では研究をまとめるのが難しい。また、この職は35歳ぐらいまでの研究者を対象としていることが多く、この年代はちょうど女性の出産・育児年代にあたる。このことは2つのことを予想させる。

  • 2〜3年という短い任期付きポジションにある間に出産を迎えた場合には、それによる研究の遅れを取り戻す時間が不十分で、次のポジションを得るのが困難になる結果、女性研究者は排除されてしまう。
  • 出産・育児適齢期に不安定な身分であることは、出産・育児を控えさせることになりかねない。
  •  任期付きポジションが増えることは時代の趨勢である。その中で女性研究者が研究を続けていけるようにするには、上記のようなことが生じないよう制度的な対策・工夫が是非とも必要である。

     本アンケートでは基礎調査ということで任期付きポジションについてこれ以上の問いを設けていないが、ここで指摘した以外の多くの問題点があることがWPJのニュースレターの会員だより等で指摘されている。今後さらに綿密な調査が必要と思われる。



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