このファイルは、WPJ-NL.22からの転載です!

「研究者を女房に持って」
    旭川医科大学・生理学第一講座  高井  章
  「子育て、家事、研究にまつわる楽しみ、苦労、工夫を語って、若いカップルへのエールとなるような話」を、という御注文を主催者の水村和枝先生からいただきました。エールというのは無理ですが、私どものささやかな経験のなかから多少とでも御参考になりそうな具体的な話を二三させていだだきます。

わが家
  まずは自己紹介から。私たちは13年前、日本生理学会が山梨医大であった1993年の6月末に結婚しました。私は39歳で名大医学部の助教授、10歳年下の家内はまだ眼科の大学院生で生理学教室に来て学位論文のテーマである毛様体筋の電気生理の実験を一緒にやっていました。3年経った98年8月に最初の子が生まれました。その後、2年おきに2人目、3人目が生まれて、現在、8歳(小3)と6歳(小1)の娘と4歳の息子がおり、私たちも今年51歳と41歳になります。最近、特に家内は眼科の仕事が忙しくなって、次第に一緒に実験をする時間も少なくなりました。このごろでは家事や子供の面倒など、できるだけめいめいの仕事に都合がいいように押付け合い、かなりスリリングな駆引きを楽しんでいます。とはいえ、二人ともずっと大学にいましたので生理学方面の共同研究も続け、年に数度は生理学関係の学会でも発表させてもらっています。

求む、お手伝いさん!
  子供というのは、学校に上がる前くらいまでは、食事、入浴、着替えだけでも手がかかりますし、よほど元気な子でも風邪や発熱は年に一度や二度ですめばずいぶん幸運なほうと思わなくてはなりません。それにしても子供の病気というのは妙なもので、夫婦が学会の前とか当直で時間がとりにくいときに限って、保育園から熱が出たから早く迎えに来て欲しいなどという電話がかかってきたりするような気がするのはどうしてでしょうか。
  共働きで3人子供がいる夫婦ならむしろ普通のそういう経験は私たちも何度となくしましたが、そのたびにピンチを救ってくれたのはうちの子供たちが親しく「おばあちゃん」と呼ぶこの上なく頼りになるお手伝いさんでした。掃除・洗濯・買い物といった日常の家事の他、発熱した子供の保育園からの迎えと世話、学会前で週末研究室に出る際の子守などなど、一つ一つあげていったらきりがないくらい、このお手伝いさんには厄介になりました。シルバー人材センターから紹介してもらった人だったのですが、この人選がうまくいったことが私たちにとって最大の幸運だったと思っています。

  お手伝いさん選びで御参考になりそうなことを2点まとめておきます。

  1. 早めに探そう お手伝いさんはできるだけ早く、できれば最初の子が生まれる前に探しておくのがポイントだと思います。私たちは一人目が生まれる1年以上前から、当面は家事の手伝い、近い将来子供の面倒も頼めそうなお手伝いさんを早々に物色し始めました。こうしてあらかじめ適任者を見つけておいたので、子供が生まれても、すぐに安心していろいろなことを頼んでやってもらうことができました。ちなみに、私たちの在所の親たちは、今でもそうですが、双方とも現役で忙しく働いており、子供が生まれてもとても世話を頼める状況ではありませんでした。
  2. シルバー人材センターは便利です お手伝いさんを探すのには、他にもよいルートがあるかと思いますが、最寄りのシルバー人材センター(http://www.zsjc.or.jp/)に相談してみるというのはお勧めできる可能性の一つです。この社団法人のいいところは、各地域で働く希望をもっている多くのお年寄りの情報を持っていることと、妥当で良心的な仕事の単価を設定していることです。家事手伝いですと、仕事の内容にもよりますが、時間あたり650円くらいからになります。たとえば、この時間単価で一回4時間一日おきに来てもらったとすると、一月4万円くらいになり、私たちでも何とか月々払える金額になります。
保育園は楽しい
  名大医学部の構内には、「ひまわり保育園」という認可保育所と、産休明けから翌年4月にそこに入れるようになるまでの子供達を受け入れる未認可保育施設「あすなろ」があります。うちの子供達は3人ともその両方で大いに御世話になりました。学内にこのような保育施設があったのはとても便利でとてもありがたかったです。
  ところで、これらの施設には「参加型」とでもいうべき運営上の特徴があり、園舎やプールとか運動場の管理から、入園式、花見、夏祭、バザー、遠足、学芸会、卒園式などの行事に至るまで徹底的に親の参加が求められました。行事当日だけでなく、準備と運営のため、クラスごとにしょっちゅう親たちが集まって会議をやっていました。その多さには始めのうち閉口していましたが、だんだん適当なサボり方なども覚えてそれほど苦にはならなくなり、むしろ楽しいと思うことが多くなりました。特に愉快だったのは、「父親の会」というのが半ば自然発生的にできあがっており、私を含め最初のころ園の会議や行事への参加をいやがっていたお父さん連中が、一年もするとほとんど例外なくむしろお母さん達よりも喜んでいそいそと集まるようになったことです。たいていの会議や行事の後には決まって飲み会があり、それがわれわれの主なお目当てであったことは言うまでもありません。ひまわりの園児は全部でだいたい70人くらいだったかと思いますが、こういう環境にいるうちに自然にほとんどの子の顔と名前が覚えられ、その親御さん達とも友達づきあいが始まりました。あの時期は本当に保育園に出入りするのが楽しかったです。今でも、はじめは邪心からでもいいから保育園の行事に参加するのはお勧めできるいいことだと思っています。

文明の利器を使おう
  お手伝いさんにいろいろやってもらうにしても、家事のかなりの部分はやはり夫婦が自分たちでしなくてはなりません。子供ができると、家の中が散らかって掃除が大変になることは言うまでもなく、洗濯物、洗う食器も増えるし、ちょうどその頃、年齢的に親たちの職場での仕事も忙しくなってくるので厄介です。どのように工夫しても大変は大変ですが、こういうとき、ちょっとした電気器具などの新規導入や買換えで大変さがずいぶん軽減できることがあります。たとえば、うちで長女が生まれた直後に買い換えて今でも使っている洗濯機は、わが家における大成功例の一つです。この洗濯機は、それまで使っていたものに比べ、一度に洗える量が数倍多く、必要なら乾燥までワンタッチでできます。何しろ、洗うものを入れ、液体洗剤を注ぎ込んでスイッチを入れるとたくさんの洗濯がいっぺんにすんでしまうわけです。この洗濯機がきてから私が洗濯を文句を言わずやってくれるようになったといって家内は喜んでいます。一般に子持ちで共働きの夫婦の道具選びでは、このように「一度にたくさんのことがワンタッチでできる」というのがポイントのようです。最近、食洗機を購入するときもこのことを考え、家庭用としては最大サイズのものを選びました。一度に家族全員分の食器をきれいに洗って乾燥までしてくれるので、二人とも疲れて帰ってきたあとの夕食の後片付けなど特に重宝しています。
  家事が大変なときほど、夫婦が不平等感なく分担するよう努力することが家庭の平和のため必要になります。そのためには、あまりストイックなことを言わず予算の許す範囲で電気器具など文明の利器は大いに買い込んで活用すべきだと思っています。

学会は子供連れで
  ここまでお話ししたことは、研究者でなくて一般の共働きの夫婦でも同様の問題に関することでした。最後に、私たちの「業界」ならではのことで、私たち夫婦が心がけていることをお話ししたいと思います。それは、できる限り学会に子供達を連れて参加するようにしているということです。生理学会にも、最初に保育室が開設された福岡大会のときに始まり、昨年の札幌大会、そして今回の仙台大会にも三人の子供を連れて参加しました。IUPSでも、1997年のSt. Petersburg大会の時は、生後10ヶ月の長女を連れてゆきましたし、2001年のChristchurch大会、今年のSan Diego大会にはその後生まれた二人も同伴しました。
  子供を学会に連れて行くのは、特に数年前に近くに預かってくれる親類がいない北海道に転勤になってからは、必要からそうせざるを得なくなったということもありますが、いくつかのメリットを感じているからでもあります。第一に、子供達には普段経験できない特別の刺激になるようです。特に、生理学会の保育室では、毎回そのときだけ一緒に遊べる友達ができ、次の生理学会を子供達も楽しみにするようになりました。海外の学会の場合、欧米のある程度の規模のホテルでは前もって頼んでおくとたいていシッターを斡旋してくれるので、それを利用するようにしていますが、費用も始め思ったほどではなく、子供の語学の勉強には駅前の英会話塾へやるより明らかに効果的だと言うことに気付きました。
  子供連れで学会だと道中が大変ではないかとよく訊かれますが、実はそれほどではありません。学会旅行で撮った家族写真を後で見ると、そのころ家族がどんな風だったかが思い合わされ、直接はそれと関係ないはずの学会の印象も不思議とよく思い出されるように思います。若い研究者の御夫婦で、学会の時のお子さんのことを心配しておられる方がおられるようでしたら、一緒に学会に出席してみられることをお勧めしたいと思います。

おわりに
  研究者の夫婦といってもうちの場合は特別のことは何もなくて、明るくユーモアをもってということをモットーに、お話ししたようなことを心がけながらやって参りました。その結果、多少のピンチはあったものの、幸い今までのところ愉快で楽しいことのほうが多かったように思います。とりとめもない話で恐縮ですが、ほんの少しでも若い研究者カップルの皆さんの御参考になるようでしたら幸いです。

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